MDR-CD900ST神話を語ってみるというお話 その2

CD900ST

Gotoです。

CD900ST
ソニーストアより

 前回、こちらでMDR-CD900STの成り立ちなどをお話いたしましたが、本日は神格化による弊害やMDR-CD900STの現状の機器としてのスペックについての所感などをお話できたらと。

 前回もお話したとおり、MDR-CD900STは販売開始されたのは1989年。誕生から30年以上が経過した機器であり、今日においても業務用としても民生機器としても現役であり、生産も続けられていることは改めてすごいとしか言いようがない実績です。

 では、当初スタジオモニターとして生まれ、それに適した性能を与えられたMDR-CD900STが、ユーザーによる神格化によりどういう状況を生んできたのか?なのですが、前回も少し触れましたが、「MDR-CD900STに非ずばヘッドホンに非ず」というような、壮大な誤解が生まれたというのが一つです。

 誤解というと語弊があるかもしれませんが、機器が持っている適正やスペックを飛び越えて、リスニングでも最高!ミックスダウンでも最高!のように全知全能装置のような評価が、インターネットの普及とともに広がっていったのです。

 この誤解を助長させたのが、DTM系メディアやライター、一部ミュージシャンです。とにかくどんな場面でもMDR-CD900STを持ち上げ、これを使わない手はない!というように囃し立てたことが、状況を複雑にしていきました。

 そもそも、演奏されている音や録音された音をなるべく装飾なく、シンプルに確認できるよう調整されており、さらに言えばソニーのスタジオで使われた場合を第一にチューニングがされています。ですから、MDR-CD900STでリスニングをしたとして、気持ちよく聞こえるか?と言われれば、人によってはそうでしょうが、リスニング用に開発されたヘッドホンのほうがよりその可能性が高いのはいうまでもありません。加えて、ユーザーが気持ちよく聞くために行うミックスダウンやマスタリングでMDR-CD900STを使用するのも、しっかりMDR-CD900STの特性を把握しているなら問題ないですが、これでうまく聞こえたからといって、実際のリスニングシーンで最適である保証はありません。なお、MDR-CD900STが登場した当時、ミックスダウンもマスタリングもスピーカーで行うのが常でしたし、そのためにスタジオが必要だったということからもわかるのではないでしょうか?

 更にMDR-CD900STは保証がありません。もちろん業務用機器なのでアフターパーツはありますが、安いものではありません。購入後即故障していてもメーカーとしては有償修理しかしてくれない機器を番人に提案するというのは個人的にはあまりよいことだとは考えません。

 最近の電子機器の発達により、ヘッドホンそのものの特性よりもプリアンプなどでいくらでも音質が変更できる時代ですので、見た目やストーリー、個人的な満足感を得たい人以外には正直オススメまでする機器ではないということをここでハッキリ申し上げおきます。

 もちろん、ソニーがいまだに業務用として販売しており、高い品質としっかりしたアフターサポートがあることは間違いないですし、上記のとおり、本当に自分が必要とするならば購入はぜひ検討いただきたいですが、間違っても初級・入門用ではないことは申し上げておきます。

 長々とお話してまいりましたが、最後にMDR-CD900STってスペックとして実際どうなの?という点、気になっている方も多いでしょうから、あくまで私の所感ですがお伝えさせていただきます。

 MDR-CD900STの評価として、「フラットでクリア、原音に忠実」と評価がありますが、2023年時点で言えば、その文言に近いヘッドホンは高級機にはなりますがもっと良いものが別に存在します。もう少し具体的にお話すると、ぜんぜんフラットではありません。低音域はかなり弱めになっていますし、中音~高音域も結構クセのある設定になっています。つぎに、原音に忠実か?という点は、先ほどもお話したとおり、出力される信号次第ですのでこれはそうといえばそうですし、そうでないとも言えるものです。レコーディングスタジオではスタジオ自体の音響から配線、機器などなどトータルパッケージで環境を作っていきますし、その中のひとつにモニターヘッドホンがあるという次第です。

 結局ですが、演奏やモニターする人が「作業しやすい」と感じることが第一であり、それを妨げるならフラットな特性でなくても、原音に忠実でなくてもいいのです。MDR-CD900STが最もすごいところはソニーのスタジオで使った際に演奏者もモニターするエンジニアも心地よく作業ができるように徹底的にチューニングしているところなのです。商品の謳い文句としては「フラットな特性、原音に忠実!」はいいのですが、実際に必要とされるものは「心地よく作業ができるもの」であることを認識しておくと、MDR-CD900STと誤解なく向き合えるのではないでしょうか?

 2回に渡り、MDR-CD900STについてお話をしてまいりました。この機器に限った話ではないですが、評判はあくまで参考とし、自分で体験して、自分が必要とするものを選んでいくというのも、こと制作という仕事であったり、趣味の場合は大切なことではないでしょうか?今回のお話が自分にあった機器に出逢えるきっかけとなれば幸いです。